~猫日記~【その2】2005/3/27 神社の脇でこちらをじっと見る野良猫を見掛ける。 「よう!空子知らないか?」と声を掛けた。 くるりと向きを変え、歩き始める猫。 振り返って俺の顔を見る猫。 「着いて来い」と言っているようだ。 俺はそいつを追いかけてみることにした。 何度も振り返り、俺の顔を見ては歩き出す猫。 慎重に後を追う俺。 「どこに連れて行くんだ?」と思った瞬間 一軒の家へ入っていく猫。 中から「あらー、お帰りーマロちゃん」と聞こえた。 あれ?ただ自分の家に帰っただけなのか? いやそんなはずはない、必ず何かある!と確信した。 何も起こらなかった。 2005/3/28 今日の朝、じいさんが「久しぶりに死ぬ夢を見た」 と言ってコップの水を一気飲みしていた。 ん?空子か?帰ってきたのか? 俺は「まさかな…」と思ったが、少しだけ嬉しくなった。 2005/3/30 残業で遅くに帰宅。 台所へ行くと、親父がテーブルに顔をうずめて寝ている。 邪魔だ。 テーブルに目をやると、汚い字で「猫探しています」とチラシが作ってあった。親父の字だ。 「・茶と白色の3才のオス猫・痩せ型・赤い首輪をしています・見掛けたら連絡ください・名前はキャサリン。」 …キャサリン? 親父は「空子」が恥ずかしいと思っているのか? オスなのに「空子」が恥ずかしいのか? キャサリンでもメスの名前じゃないのか…と考えてみたりする。 2005/3/31 朝からあわただしく玄関を飛び出す親父。 どうやら寝坊したようだ。 その様子を二階から眺める俺。 カバンからキーを出し→車のドアを開ける→なぜかカバンにキーをしまう→車に乗り込む親父。 「さぁ、行ってくるぞ!」窓の向こうのお袋にそう言って、エンジンをかけようとするが、キーが無い。 「あれ?ドアに刺しっぱなしか?」と言いながら 車の窓を開ける→鍵穴に手をやって捜す→ちょっと焦りだす親父。 座席の下を覗き込む→車の下を覗き込む→やっぱり無いらしい。 俺は「カバンの中だろ?」と思ったがあえて無視。 「家に忘れたか?」そう言いながら親父はカバンからキーを出し、車に鍵をかけた。 …手に持ったキーをしばらく見つめる親父。 何事も無かったようにまた車に乗り込んで行ってしまった。 俺はなんだか悲しくなった。 2005/4/2 公園の前を通りかかると、砂場の中に空子を見つけた。 「そら子!!」 無心で駆け出す俺。 「何やってたんだよ!心配させやがって!いったい今までどこ行ってたんだよー!!」 と叫びながら空子を抱き上げようとした瞬間 はっ!とする俺。空子に見えたのは、茶と白色のカバンだった。 俺は笑い崩れた。 夕方、飯を食っているとじいさんが帰ってきて 「空子を見つけた!」と言った。 「と、思ったらこれだった…」 じいさんは茶色と白のカバンを持っていた。 茶色と白のカバンとじいさんは、親父によって警察に連れて行かれた。 2005/4/5 空子がいなくなって1ヶ月が経つ。 奴はまだ帰って来ない。いったい何処に行ったんだ? あいつがいなくなった前って何があったんだ? 日記を読み返す俺。 嫌なことを思い出した。 家出をするのは俺の方じゃないのか…と本気で思った。 2005/4/6 近所のスーパーに、空子の大好きな猫缶を買いに行ってみたりする。 家に帰ると、家の周りをウロウロ徘徊するじいさんを見掛けた。 じいさんも空子を探しているようだ。 「今日も空子探してるのか?」と声を掛けると、 じいさんは はっ! として家へ入っていった。 どうやらただの徘徊だったようだ。 2005/4/8 公園のベンチで、右目が金で左目が銀の白猫を見つけた。 背中を撫でる俺。 首だけくるりと振り返って俺の手をガブリと噛み付く猫。 避けず警告も無しに噛んでくる猫。 いろんな意味で痛かった。 2005/4/9 夜中、腹が減って起きた。 台所でゴソゴソと物色していると、 じいさんが「そ、空子か?」と叫びながら入ってきた。 2005/4/12 空子がいつ帰ってきてもいいように、台所には水とカリカリが置いてある。 毎朝まめに水を替える親父。 「水が蒸発するのは分かるが、カリカリも蒸発するのか?」 と、わけの分からないことを言っている。 カリカリが昨日より減っているというのか? 「ネズミよ」というお袋。 「そ、空子か!」というじいさん。 「気のせいか?」という親父。 俺も空子じゃないのかな、と考えてみたりする。 今日はいつもより、少しだけ空が青く感じた。 2005/4/15 親父が風水の本を買ってきた。 真剣に読む親父。 メモを取る親父。 メモには「南に緑」と書かれていた。 風呂から上がった親父は何故か鼻歌を歌っていた。 何かをたくらんでいるようだ。 2005/4/16 親父が小さな観葉植物を二つ買ってきた。 それを南の窓に並べる親父。 「いいか、息子。これが二つ同じように育てば、待ち人が帰ってくる」と言った。 鼻歌を歌いながら風呂へ入る親父。 じいさんが水をたっぷりあげていた。 2005/4/17 朝、リビングに行くと親父の観葉植物が二つとも枯れていた。 親父は今日、会社を休んだ。 2005/4/18 仕事場の近くで空子にそっくりな仔猫を見掛けた。 なんとなく、空子が家にやってきた日を思い出す。 ある夏の朝のこと。 新聞を取りに郵便ポストを開けるお袋。 郵便ポストには仔猫が丸くなって入っていた。 お袋はびっくりもしない。 「あら、消印が無いわねえ」とか言って家に入れたのだ。 俺の横でミルクを美味しそうになめる猫。 「いんじゃないか」となぜかニタニタする親父。 「目が青いからこの子は空子じゃな」と勝手に名前を付けるじいさん。 俺は空を見上げて空子のことを考えた・・・ もうそろそろ、帰って来いよ空子・・・。 つづく… ジャンル別一覧
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